部屋を整理していたらこんな原稿がでてきた。


本日は、こうした場所で、お話しする機会を設けてくださり、ありがとうございます。クラウドファンディング成功者ということで、この集いに参加することができたことを光栄に思います。お招きいただいた○○(運営サイト)の担当者の方にも感謝しています。これだけは最初に言っておこうと思っていました。


さて、私たちは「フィリピンで女性の生計と子どもたちの教育環境の改善をしたい!」というプロジェクトを、○○さん(運営サイト)を通しておこないました。実施者は学生団体を謳っていますが、内実は、言ってしまえば大学のとある弱小ゼミです。


私のゼミでは、国際協力について学んでいます。所属しているのは学部の3年生と4年生です。ゼミにはスローガンがありまして、それは、「理論と実践の架け橋」です。これは、教室での座学だけにとどまらず、実際にフィールドに出て、頭と身体の両方を使うことを重んじているという意味のこもったフレーズです。同時に、学生が国際協力を「実践」している姿をアピールすることで、同年代、つまり若い世代に、国際問題への関心を持ってもらう、これも私たちのゼミの大事なテーマです。


さて、「実践」の一環として、私たちは昨夏、フィリピンの農村部、ヌエバビスカヤ州という場所を訪れました。首都マニラからはバスで8時間。辺りは山に囲まれていて、そこから流れ出る水を活かした農業が盛んな地域でした。


しかし、農業は気候に左右されやすく、収入は不安定になりがちです。例えば、日本列島と同じように、フィリピンも夏は台風の通り道となるのです。台風がやってきて、畑を荒らし、作物を根こそぎダメにしてしまうということが、フィリピンでも起こっているんです。


こういう時、男性であれば力仕事をして収入を得ようとか、町へ出稼ぎに行こうとか、いろいろ選択肢が考えられると思うんです。ですが、女性はなかなかそうはいかない。子どもがいたりすれば、尚更です。そこで、私たちは農村部の女性たちにフォーカスして、資金集めをすることにしました。


女性にフォーカスした理由はもう一つあります。それは、村の将来を担う子どもたちの存在です。村の女性たちが収入を獲得し、それを自分の子どもたちに投資することを、生計向上の先のゴールとして見据えているのです。お母さんが稼いだお金で、子どもに文房具を買ってあげる。こういうことが村の未来にとってすごく大事だと思っているんです。


どうしてクラウドファンディングで資金を集めようと思ったかということをお話しすると、今まではそうしたプロジェクトに使うための資金を路上募金で集めていました。でも、実際に道端に立っていると、寄付してくれる年齢層って限られているんですよね。特に、若い人たちはほぼ素通りなんです。この現状を、インターネットを通じた環境でなら変えられるんじゃないかと思ったんです。周知活動というのは、かなり大きなテーマとしてありました。


私はプロジェクトのリーダーとして今ここに立って話していますが、そもそも、このクラウドファンディングは、4年生がやりたいと言いだしたものだったんです。彼ら彼女らも、路上で支援を呼びかける中で、若い世代への周知というのはずっと悩んでいました。そうした状況で、クラウドファンディングをやりたいという話が出てきたのは、去年の6月ぐらいだったような気がします。


しかし、4年生は卒論を書くので、クラウドファンディングを実際にスタートさせる頃には、まともに手伝ってくれないというのは火を見るより明らかだったんです。対して、私たちの学年は私たちの学年で、クラウドファンディングという言葉を知っているのが私しかいなかったんですね。というのも、私はレースが好きでF1なんかをよく見るんですが、そのF1チームが参戦資金を捻出するためにクラウドファンディングをやったことがありました。それで、はじめてクラウドファンディングを知ったんです。


当然のように私がリーダーに選ばれたんですが、はっきり言ってクラウドファンディングには大反対でした。まず、お金を受け取る以上、そこには責任が発生します。路上募金なら一瞬で済むかも知れませんが、ネットには誰がどこにいくら寄付してっていうのが一生残る。もしプロジェクトが失敗したら?不用意な言葉で炎上したら?小心者の私は、インターネットという大海原に漕ぎ出すのが怖くてたまらなかったんです。


ましてや、皆さんご存知のように、クラウドファンディングを立ち上げ、ゴールまで導くには、ものすごく多くのリソースを必要とするわけです。サイトに載せる写真を探す、文章を考える、集まった金額に応じてwebサイトを更新する、支援してくれた方々一人一人にお礼をする、リターンを梱包して送る、これらにはものすごく手間と時間がかかります。普段のゼミ活動で精一杯の私たちが、こうした諸々を抜かりなくこなせるのかという不安で、プロジェクトを始める前から押しつぶされそうでした。


やるからには全力を尽くそうと思って取り組みましたが、最初から躓きました。キュレーターの人にははじめの3日間が勝負の分かれ目だと言われましたが、私たちのプロジェクトは3日どころか1週間、ゼロ行進が続いたんです。胃が痛かったです。だからこそ、最初に支援が入ったときは嬉しかったというよりホッとしました。ゼミメンバーのお父様が寄付をしてくれたんです。あれはまさに、絶望の先の一筋の希望の光でした。


そこから、プロジェクトは徐々に軌道に乗り始めました。私たちのプロジェクトでよかった点は、支援金を1000円から募ったことだと思います。目標金額が20万円だったので、1000円では効率が悪いとキュレーターの方には反対されましたが、たとえ1000円でも、国際協力に参加したいという方々の気持ちをすくい上げることができたのは私たちにとっても大きかったです。


最終的に39人の方々から温かいご支援をいただき、プロジェクトは無事に成功しました。でも、私たちのゴールはここではないと思っています。皆さんの思いの詰まったお金を現地に持っていき、この手で直接渡し、どのように使われるのかまでを見届けるのが私たちの責任だと感じています。


もう一度クラウドファンディングをやりたいか?成功者の皆さま、そして運営サイトの関係者の方々がいる前で恐縮ですが、2度とやりたくないです。人が汗水流して稼いだお金をいただくのは大変なことです。思うように支援金が集まらず、苦悩した夜は一度や二度ではありません。時にはゼミ内で軋轢も生まれましたし、多方面に迷惑をかけたりしました。私がいまだにプロジェクトの達成を手放しで喜べない理由はこういうところにあるんじゃないかと感じてます。私たちの後輩には、クラウドファンディングに頼らない、新しい形の周知活動を考えついて実践してほしいと切に願っています。といっても、彼らはここにいないわけですが。


『貴重なお話ありがとうございました。では、次の方、お願いします。』




(この原稿は2017年3月におこなわれた「クラウドファンディング成功者の集い」にてスピーチされる予定だった原稿です。内容はもちろん先生と相談しました。しかし当日、私がどうしても布団から起き上がれなかったため、この内容が世に解き放たれることはありませんでした)