吉祥寺駅から徒歩7分のマンションに住んでそう

「朝イチで保健室に来るのはね、登校途中に転んで膝や手のひらにすり傷を負った生徒たち。遅刻しそうで急いでてって人が多いわね。」


「そういうときに手当てをしながら思い出す話があるんだけど。当時、社会人講座ではやりの脳科学の講演を聞くためにはじめて降り立った淵野辺駅。電車を降りて時計を見たら、ギリギリ間に合うぐらいの時間。でも方向は合ってる?大学構内で迷うかも?と考えながら大急ぎで階段を下っていたのよ。」


「次の瞬間。身体が宙に浮いたかと思ったら、膝下をズズーッと擦りながら階段を数段落ちてたの。たしか日傘とバッグも飛んだかな。」


「すごい鮮やかな血が出てね。親切な人にバッグを拾われて、大丈夫ですかって声をかけられたんだけど、転んだことに気が動転しててさ、恥ずかしいし、痛いし。まあ速攻で立ち去ったよね。結局、講座に間に合うのはもう諦めてさ、薬局でガーゼ買って応急手当したんだけど。」


「でもね、池上くん、ここからが大事なところでさ。当時は大人なのに転んで恥ずかしいっていうのと、家を早く出とけばっていう後悔があったんたけど、今にして思うとね、すり傷だけで済んでよかったなって。階段から変な角度で落ちてたら、捻挫とかしてたかもでしょう。人間の身体って不思議なものでさ、こんなどんくさい私でもとっさの反射で防御体勢が取れたのかもね。」


「生体防御反応ってのはさ、身体を守るけど、逆に身体を苦しめてくるときもある。アレルギー反応とかでね。蕁麻疹出たりとかさ。池上くんも大人になったら分かるよ。だけどね、そういうときには身体の免疫機能が働いてるって考えてみて。インフルとか風邪が治るのも免疫のおかげ。あれ、私、今なんかすごい保健室の先生っぽいこと言ってる!?」


「免疫で防げるものも、防げないものもあると思う。だけど、自分が今持っている身体でずっと生きていくんだからね。30年後池上くんは何してるのかな。10年後は?1年後は?明日の自分は?今日、今、何をするかで、決まってくるのかも知れないね。」



先生ごめん。ミドリカワ書房の歌詞のように安全ピンをめった刺ししてくれ…。