1分10秒の快楽「モナコGP」


世界3大レースといえば、インディ500、ルマン24時間レース、そしてF1モナコGPを指す。なかでも、華やかさで他の追随を許さないのがモナコGPである。舞台となるモンテカルロ市街地コースは四方をガードレールに囲まれており、ドライビングミスを犯した際に逃げこむエスケープゾーンもほとんどない。ドライバーの技量や集中力が求められるサーキットレイアウトといえる。距離にして3.34km。2020年時点でのコースレコードは1分10秒166(ルイス・ハミルトン)。世界一の難コースを一周してみよう。



まずは『ホームストレート』。ストレートと言いつつも単純な直線ではなく、右に緩くカーブしているのが特徴である。

280km/hまでスピードを上げると、1コーナー、『サン・デボーテ』が見えてくる。90度の直角右ターンはイン側の縁石を使いながら通過する。コース幅が狭いため、アクシデントが起こりやすいのが特徴。現に、1995年や2012年には多重クラッシュが発生している。

続いて急な登り坂を左右にカーブする『ポー・リバージュ』。スタート直後の20台の隊列が矢のようにこのコーナを駆け上がっていく様は圧巻の一言。

坂を登り切ったところにあるのが『マスネー』。イージーな左コーナーに見えるが、2010年にはここで当時フェラーリを駆るフェルナンド・アロンソがクラッシュ、モノコックにまで及ぶダメージを受けるほどであった。

その先のコーナーは『カジノ・スクエア』と呼ばれている。グラン・カジノの前の広場を回り込むカーブは、いかにもモナコらしいコーナー名といえよう。

短いストレートを通過すると、『ミラボー』がドライバーを待ち構える。ここは下りながらのブレーキングとなるため非常にトリッキー。2014年の予選ではメルセデスニコ・ロズベルグがここでブレーキングミスをしオーバーラン。後続のチームメイト、ハミルトンはタイム更新が不可能となり、物議を醸した。ちなみに、セクター1の計測ポイントはここにある。

次のコーナーは『ロウズ・ヘアピン』。かつては付近に駅があり、ステーションヘアピンと呼ばれていた。現在でも、フェアモントヘアピンなどの別称がある。ここの通過速度は50km/h以下となり、F1カレンダーでは最低速度。加えて、このきついヘアピンを曲がり切るために、モナコGPを走るマシンには特殊なステアリングアングルのセッティングが施される。

ヘアピンをクリアすると2つの右コーナーが続く。この2つ目を特に『ポルティエ』と呼ぶ。港という意味のコーナー名が示す通り、ここからマシンは海沿いを走ることとなる。1988年には独走態勢を築いていたマクラーレンアイルトン・セナが突然クラッシュ。チームメイトのアラン・プロストにトップを奪われリタイアする出来事があった。

『トンネル』はモンテカルロ市街地サーキットのハイライトの一つ。右にカーブしながら全開で駆け抜ける。2004年にはシーズン5連勝中だったミハエル・シューマッハがここでウィリアムズのファンパブロ・モントーヤ接触。タイヤが曲がった状態でトンネルから出てくるフェラーリの姿は世界に衝撃を与えた。

『ヌーベル・シケイン』はモナコで数少ないオーバーテイクポイントの一つ。2006年にはルノージャンカルロ・フィジケラが前を走るBMWザウバー、ジャック・ビルヌーブのインを襲い、抜き去った。このオーバーテイクフィジケラ曰く「レース人生で最も爽快だった瞬間」だという。一方、シケイン手前は急激な下り坂になっており、バンプもあるためマシンの姿勢が乱れやすい。2011年にはロズベルグザウバーセルジオ・ペレスがここで大クラッシュを演じた。

短い直線の後にある高速の左コーナーは『タバコ屋』と呼ばれる。観客席の裏にあるタバコ屋が由来。こういった名称も実に市街地コースらしい。2013年にはウィリアムズのパストール・マルドナドが前を走るマルシャのマックス・チルトンと絡んでマシンが一瞬飛び上がり、そのままクラッシュ。バリアの修復のため、レースは一時赤旗中断となった。

セクター2の計測ポイントを通過すると、矢継ぎ早に2つのシケインをクリアする。ここは『プールサイドシケイン』。左、右と素早くステアリングをさばいたあと、間髪入れずに減速して右、左と通過する。

再びスロットルを開けると見えてくるのが、『ラスカス』。コーナーの内側にあるレストランが名前の由来という。2006年の予選ではミハエルのフェラーリがコースを塞ぐようにストップ。他車のアタックを妨害したとして予選タイムが抹消されたのはあまりにも有名。だが翌年の予選、同じくフェラーリキミ・ライコネンも手前のプールサイドシケインでサスペンションアームを損傷させ、曲がりきれずにここでストップ。2年連続でフェラーリがラスカスに"駐車"したことはあまり知られていない。

急角度な右カーブ『アントニー・ノーズ』を立ち上がると、フィニッシュラインはもう目の前である。

栄光のチェッカーフラッグを一番に受けたドライバーは、「他のサーキット3勝分の価値がある」モナコGPの優勝を達成することになる。