ひねくれ者の罪深き我が正体

私のアパートの隣にはインド人が住んでいる。よく日に焼けた顔に無精ひげを生やしているから、私は彼を労働者かと思っていたが、話をしていくうちに彼は近くの大学に通う留学生なのだとわかった。今年の4月に日本に来たという彼の日本語は日に日に上達していて、それを見る私の目は敬意に満ちている。大学生のころ、最もイージーであるといわれた韓国語の単位を落とした上に、10年以上習っている英語すらまともに話せない私以上に、異国の言語を学習し操る難しさを知る人物はいないだろうと思うからだ。そればかりか、近頃は彼の発する日本語にはっとさせられることさえある。


ある日、私は彼と、海外旅行について話していた。というのもこのたび、私の所属している会社で、優秀な成績をおさめた社員向けに、ご褒美旅行なるものが設定されたからだ。行き先はインド、タイ、ミャンマーの中から選ばれるという。私は2年前にタイに行ったことがあるが、インドとミャンマーは足を踏み入れたことがない。だが、行ってみたいなあという気持ちはすぐに、会社の旅行で行ってもなあ、という気持ちに覆い被さられた。旅行の概要などは知る由もないが、どうせめぼしい観光地を巡って終わりなのは目に見えている。私はひねくれているから、せっかく海外に行くのなら、ガイドブックに載っていない場所を訪れてみたいと考えるタイプの人間だ。社員旅行など、性に合うはずがない。


彼の口から「スッパイブドウ」という言葉が返ってきて私は驚いた。キツネが手の届かないような高いところになっているぶどうを見て、あのぶどうは酸っぱいからとエクスキューズを吐いて諦めるという、あの童話のことだ。そんな言葉どこで覚えたんだと、私は苦笑いするしかなかった。そういうことは、まず優秀な成績とやらを出してから言えよ、と言わんばかりの、彼のメッセージだった。


こうなったら会社で一番の成績を出して、大手を振って君のカントリーのインドに行ってやるよ、と宣言して、私たちは各々の部屋へと散った。しかし、家のドアを閉めた私はふと思った。これでは社員のモチベーションを上げようとする会社の思うツボではないか。ひねくれ者の私にはそれさえも癪に触るのだった。